フロマGのチーズときどき食文化

チーズを作るお釜の話

2021年1月15日掲載

チーズを作るお釜の話
チーズ造りで一番大切な道具といえばお釜です。古代オリエントの「肥沃な三日月地帯」呼ばれるところで、チーズらしきものが作られるようになってから8千年以上たったといわれていますが、チーズ作りは基本的にお釜(またはオナベ)から始まります。今ではタンクとパイプで連続的にチーズを作っている所もあることは知っていますが、数千年のチーズの歴史から見ればつい最近の事です。チーズ作りは基本的にはミルクをお釜に入れて薪を燃やし一定の温度に温めて乳酸菌の繁殖をうながし、そこに凝乳剤を添加しミルクを凝固させます。そして固まったミルクの組織をこわす(カッティング)と、ミルクの固まり(カード)と水分(ホエイ)が分離してくる。この様なチーズ作りの初期の作業になくてはならないのがチーズ釜なのです。これを英語ではチーズ・ケトル(Cheese Kettle)、フランス語ではショーディエール(Chaudière)と呼ぶそうです。

1.スイスのチーズ釜

その中でも古くから使われてきた伝統的な銅製のチーズ釜を紹介します。現代ではチーズ作りの現場も近代化され大きな工場へ行っても、ステンレスのタンクとパイプが張りめぐらされ写真を撮る被写体がなくて困ります。その点ヨーロッパの田舎にはまだ、写真になる現場が残っていてほっとします。写真1はスイスアルプスの3000mクラスのカール(氷河の跡)の夏小屋で撮影した物。この様な形の銅製のチーズ釜は今でもスイスやフランスのアルプス地方では至る所で見ることができます。ここでは春から秋にかけてレティヴァ(L’Etiva)というチーズが作られていました。このタイプのチーズ釜は可働式の頑丈な腕木に吊るされていて、必要な時には釜を火の上に移動することができるのです。いかにも古そうなお釜ですね。

2.小さなチーズ小屋の小さなチーズ釜

写真2は夏のピレネー山脈のバスク地方の尾根にある夏のチーズ小屋です。まだ若い夫婦が羊の群れとホエイを処理するための豚を放し飼いしながら、オッソー・イラティを作っている現場です。
写真は凝乳をカットしている場面ですが、これで小型のオッソー・イラティが4個できました。ここで使われていたのは直径1mほどの小さな銅釜でしたが、これほど小さな釜でAOPチーズを作っているところを見るのは初めてです。

3.パルミジャーノを作る円錐形の銅釜

写真3の巨大な銅釜ですが、形が変わっていて中が円錐形になっている。これはイタリア北部で作られている大型のチーズ、パルミジャーノを作る釜です。この釜を使って1200ℓ以上の牛乳から30kgほどのパルミジャーノが2個できます。円錐形の釜の底は狭くなっているので、加熱されたカードはくっつきあって底に沈み大きな塊になる。そのカードの固まりを布で掬いあげ2等分し釜の中に吊り下げホエイを切って型に詰めるのです。

4.近代工場のチーズバット

写真4は近代的なチーズ工場のもので、これはもう釜とは言えませんね。通常はチーズバットと呼んでいます。これはひと昔まえのものから更に進化していて、凝乳をカッティングしながら攪拌もするという優れもので、真ん中の装置に注目してください。左の枠にはピアノ線が横に張られ、右は縦になっている。これを回転させることにより、カードを自動的に賽の目状にカットすることができるのです。

5.プールのような巨大なチーズバット

写真5は長年チーズ作りの現場を取材してきて、度肝を抜かれたチーズバットです。この巨大なチーズバットは、近所の小学校のプールより大きい。長さは25mくらいはあったでしょう。これはイングランド中部で作られているスチルトンの工場で撮影しました。

 

 

©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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