チーズの名前を知れば産地が分かる
C.P.A.の『チーズの教本2019』に載っているフランスのA.O.P.指定のチーズ46種類を調べてみると、チーズを産出する町や村の名前が付けられているものが31種類ありますが、大都市というのはなく、カマンベールのように、家屋が2~3軒しかない過疎の村も結構あります。また集落名ではなく地方名がチーズの名前になったものも幾つかあり、中には、ミルクを貰う動物の名前が付いたもの、産地名と動物の種の名前、そして、そこから生まれるチーズの名が同じというのもあるのです。そんな中からいくつかの例を取り上げてみましょう。
まずはフランスでも最も古いといわれるやや大型の円柱形をしたライオル(Laguiole)というチーズがあります。このチーズの産地でもある同名の村は、フランス中央高地の南にある1000人くらいの小さな集落なのですが、ここには世界に知られる三つの名物があります。まずチーズですが、役場の広場にはこのチーズに乳を提供してくれるオーブラックという牛の銅像が立っていて近くに大きなチーズ工場があります。このチーズの名は日本でも流行したチーズ料理、アリゴ(Aligot)でも知られるようになりました。そして、この村の近くには有名な三ツ星レストランのミッシェル・ブラスがあるのですが、このレストランは牧場に囲まれていて、周りには人家はなく交通機関もないので大変です。三つ目は、これも日本でよく知られるライオル・ナイフ(ラギオルではない!)の発祥はこの村でだそうで、何軒かの専門店がある。ついでながら、ここから少し北上すると、ライオルと同じ系統のカンタルという地方名のチーズがあり姿形や大きさもほぼ同じなのですが、熟成は荒っぽく廃線になった鉄道のトンネルを利用した長い熟成庫が見ものでした。
さて、少し北に上がって、スイスとの国境のフランシュ・コンテ地方に行きましょう。ここには地方名を冠したフランスで最も生産量の多いコンテ(Comté)がありますが、コンテはジュラ山中で作られる大きなチーズですが、お隣のスイスで作られているグリュイエールと同じ仲間でコンテ・ド・グリュイエールとも呼んでいます。そしてこのエリアでは原料乳はモンベリヤード牛の物と決められているのです。またこの地方では、同じ牛のミルクから数種類のA.O.P.チーズが作られています。モン・ドール(Mont d’Or=金の山)という山の名がついたチーズや、チーズの中心に木炭粉の黒い線が入った村名チーズのモルビエ(Morbier)などがあります。
最後に、産地名と牛の品種名とチーズ名の三者そろい踏みをご紹介しましょう。レマン湖の南岸のフランス領にアボンダンス(Abondance)という町があり、ここから南方のモン・ブランまではアボンダンス渓谷など深い谷が刻まれた険しい山岳地帯が続きます。この辺りで古くから買われているのがアボンダンス牛なのです。そしてチーズの名もアボンダンス。このチーズは側面が電車の車輪のように凹んだ、中型の山のチーズです。初めてこのチーズを作る工房を訪ねると、そこにはなんと日本人の職人が一人でアボンダンス・チーズを作っていました。
©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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