フロマGのチーズときどき食文化

グリュイエール・チーズを知ってますか

2020年9月15日掲載

グリュイエール・チーズを知ってますか        

 

1.グリュイエール城

表題のような質問をするのは、このサイトの読者に対し失礼かも知れませんが、まあ、とりあえず目を通してください。改めて「グリュイエール=Gruyère」を知っていますか。そう、スイスを代表するチーズですね。レマン湖の北にフリブールという州があり、そこにはグリュイエールという湖があります。そして、その近くには中世に建立された同名の可愛らしいお城もある。ここから北西のヌーシャテル湖までは、スイスの中では比較的平地の多いところです。

2.本家スイスのグリュイエール

世界に知られるチーズ、グリュイエールはこのあたりで作られているのです。そして、その北側に接するベルン州では、世界最大のチーズ、エメンタールが作られており、この一帯にはスイスを代表する山のチーズの産地が繋がっているのです。そして、フランスとの国境近くのヌーシャテル湖を渡り少し行くとフランス領のジュラ山脈に行き当ると、ここがフランス産グリュイエールの一大産地になっているのです。

3.グリュイエール・ド・コンテ

ここで、ちょっと待った、の声がかかりそうですね。フランスのジュラ山地といえばコンテ(Conté)じゃないのといわれそうですね。そう、スイスのグリュイエールも、フランスのコンテも、姿形もほぼ同じですね。現在のフランスとスイスの国境が確定したのは近代になってからで、それより何世紀も前からグリュイエールと呼ばれるチーズがこの辺りの広い範囲で作られていたのです。フランスのサヴォワ地方の山中で作られるものなどは大きさが違うのもあったようですが、スイスのグリュイエールというチーズの名称は2001年にA.O.C.(原産地名称保護)で保護される事になり、他の国の物はこのチーズ名は名乗れなくなったのです。しかし、フランスのジュラで作られるコンテだけはGruyèr de Contéと名乗ることが許されるという複雑な事になっている。

4.グリュイエール・ド・ボフォール

でも、フランスではP.G.I.(地理的表示保護)にグリュイエールを入れている事情はよく解らないですね。それはそれとして、フランス人は大型の山のチーズは何でもグリュイエールと呼ぶくせがあるそうで、パリのチーズ商マリー・アンヌ・カンタンの「フランス・チーズ・ガイドブック」にはボーフォールも別名としてグリュイエールの名を入れています。

 昔パリの有名なチーズ店で買ってきた「世界のチーズ料理800種」を引っ張り出して、チーズは何が使われているかを調べてみました。世界のと銘打っているけれど自国フランの料理が多いのは当然ですが、面白いのは、料理の素材にハード系のチーズを使う場合、レシピにはほとんどが単にグリュイエールと表記されているのです。あまりチーズの名前などにはこだわらない国民なのでしょうか。ここにも、フランス人の何でもグリュイエールという志向が現れているようです。

5.エマンタル・ド・サヴォワ

話は少しそれますが、フランス人のチーズの消費に関して驚いたことがあります。フランス人が最もよく食べているチーズは何かといえば、トップはずっとカマンベールだったのですが、10年ほど前にそれがエマンタル(エメンタール)になったそうです。普通の日本人はフランスのエメンタールなんて見た事もないですよね。でも、CPAの教本にはP.G.I.(地理的表示保護)認証のエマンタル・ド・サヴォワが載っています。フランスではこのチーズの消費が伸びたのは、エマンタルを使いやすく細断してパックしたものが、スーパーなどで売られ料理用として人気を呼んだからといわれています。それにしても年間一人当たり3.2kgといえば、けっこうな量ですね。フランス人に言わせればこのチーズもグリュイエールの一種というかもしれません。

 

©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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