世界のチーズぶらり旅

大西洋の小島で究極の手づくりチーズを見た

2020年7月1日掲載

大西洋の小島で究極の手づくりチーズを見た

1.グラン・カナリア島の象徴ヌブロ岩 

人類はいつごろからチーズを作っていたのか。「チーズと文明:築地書館」の著者ポール・キンステッドは「動物のレンネット酵素を用いて乳を凝固させる技術自体はミルクを搾って集めるようになってすぐに行われるようになったと思われる」と書いている。しかしながら考古学的には物証がなければならない。そこで、アナトリアで発見された小さな孔がたくさんあいた土器に付着していたものを最新の分析法で調べると、これは、紀元前6千年頃に使われたホエイの漉し器である可能性が高いというのである。であればチーズは今から8千年も前から作られてきたことになる。ま、それらの考古学的な正確な年代などは、あまり興味はないが、人類は数千年もの長い間チーズを作り続けてきたことに驚くのだが、作り方の原形は全く変わっていないのには感動するのである。ここ数百年の間にチーズの製造装置は近代化されているが、ヨーロッパではいまだに古典的製法を守りながらチーズを作り続けている工房は無数にある。しかし、製造器具は最新の物を使っているところが多い。そんな中で、ある年訪れた小さな島で究極の手作りチーズに出会ったのである。

2.山中のチーズ工房入り口

アフリカ大陸の西100kmの大西洋に浮かぶカナリア諸島は7個の小さな火山島が集まった群島でスペインの自治領である。位置は沖縄とほぼ同じ北緯30度より少し南にある。この辺りは北東からの貿易風が吹くので、この島々は帆船の時代、新大陸へ出帆する基地として栄えた。この自治州の州都は中央部にあるテネリフェ島とグラン・カナリア島にある。これら7つの島は、それほど離れていないのに島によって気候がまるで違うのである。

3.腕を使ってカードのカッテイング

今回訪ねた究極の手作りチーズの工房はグラン・カナリア島の中央部近くにあった。この島は直径20kmほどのホタテ貝のような形をした島だが、貿易風が吹き付ける北東側は比較的雨が多いらしく緑も濃いが、南西側の半分は乾燥地で、むき出しの岩山が続く。こんな岩石だらけの地形を穿ってつけられた山道をたどりチーズ工房に向かった。
 

4.ホエイの排出

中央部近くの岩が折り重なったような山中にそのチーズ工房はあったのだが、傾斜地を利用し自然石を積み上げて作られた半地下の建物はどうしてもチーズ工房には見えない。だが、中に入れてもらって納得した。10畳ほどの大きな部屋と、洗い場などの小さな部屋が二つあるだけだが、壁と床にはタイルが張られ作業場全体はなかなか清潔だった。チーズを作るのは年配のおばさんと、それに大柄の若い美女が二名である。しかし部屋の中にはチーズを作る道具らしきものが見当たらないのである。しばらくたって、驚愕の手造りチーズの製造が始まった。美女に見とれている暇はない。狭い工房の中ではフレームに同行者の姿が入らないように写真を撮るのは難しいのだ。

5.腕と膝で脱水整形 

まず隣の小部屋で作業が始まる。前もって輸送缶の中で凝固させておいたミルクの中に腕を突っ込み、かき混ぜるようにしてカードをカットし始めたのである。この情景はポルトガルでも見たが、そこでは、ちゃんとした製造用の容器を使っていたが、ここではミルクの輸送缶である。しばらくして、カードが収縮しホエイが分離してくると、台所で使うようなザルでホエイを漉しとる。水分が切れてカードが締まってきたら、チーズの表面に模様をつける木製の水切り台の上にプラスティックのワッパを置き、その中に布で包んだカードを詰める。そして、その上に乗っかり全体重をかけながら、残ったホエイを抜くと共に形を作っていく。写真のように腕と膝で脱水と整形を行うのである。これを発酵室で熟成させれば、この島自慢の立派なチーズができ上がるという寸法である。脱帽!

6.ちゃんとできました










 

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©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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