フロマGのチーズときどき食文化

チーズではないチーズ?リコッタについて

2020年5月15日掲載

チーズではないチーズ?リコッタについて

1.ホエイを加熱し蛋白質を凝固させる

ネットでリコッタについての書き込みを見て驚きましたね。ほとんどがリコッタとは何かを正しく理解していていない。リコッタの原料は「チーズを作るときに出るホエイ」とあるのは正しいのですが、その「ホエイを煮詰めて作る」といっている。ま、それは許すとしても、複数のサイトで家庭でのリコッタの作り方という記事には驚きました。日本で一般の人がリコッタの原料になる量のホエイを入手するのはほとんど不可能です。ホエイなんてどこにも売っていない。それでも「失敗なし。手作りリコッタチーズ」というサイトを読むと、材料は何と牛乳に生クリームなど加えて加熱しレモン果汁で凝固させるというもの。これはリコッタではなくフレッシュ・チーズですよ。皆さんはホエイなる物をよく理解していないしリコッタに対する知識も曖昧です。

2.固形物を水切り器に掬い入れる

そこで、リコッタ・チーズ(日本ではチーズの範疇には入れていない)の作り方についての簡単な原理を説明しておきます。まず、乳にレンネットと呼ばれる凝乳酵素を加え、乳の主要なたんぱく質であるカゼインを凝固させて水分(ホエイ)と分離させ、カードと呼ばれる個体をつくる。これがチーズになるわけですが、その時ホエイと呼ぶ水分が大量に出ます。このホエイの中には、レンネットでは固まらずにホエイの中に残る複数の蛋白質が含まれているのです。これ等の蛋白質は93~95℃位に加熱すると固まるのでホエイを再加熱(Ricotto)してこれらの固形物を回収したのがリコッタというわけです。ホエイを煮詰めるのではありません。古代のチーズ職人にとっても、ホエイの処理は頭の痛い問題だったようで、ローマ時代の農学者でもあった大カトーは「農業論」の中で「100頭の羊に対し10頭の豚を飼いホエイを処理させるべし」と書いています。何しろホエイのほとんどが水分で、蛋白質などの固形分は1%程度なのです。しかし、ホエイには大量の乳酸菌や有用な微量成分が含まれているので、ヨーロッパなどでは、豚のエサとして広く使われ、今もチーズ工房の近くに豚小屋があるのは珍しくないのです。

3.こんな形が一般的

リコッタに話を戻します。ヨーロッパのチーズ大国といえばまずフランス、そしてイタリアですが、リコッタ(Ricotta)といえば断然イタリアですよね。イタリアの市場などには必ずありますが、フランスではほとんど見かけない。なぜでしょう。その答えはなかなか見つかりませんでした。でもこんなデーターがありました。「チーズ・その伝統と背景=泉圭一郎」という本に、牛乳と羊乳と水牛乳のホエイに移行する蛋白質の含有率が書かれています。すなわち牛乳は0.2~0.3%、水牛乳では0.7~0.9%、羊乳は1.1~1.3%とあり、これを見れば羊乳のホエイには牛乳の5~6倍もの蛋白質が含まれていることが分かります。そのまま豚の餌にするのはもったいない。

4.大工場での水切り装置。

そこで、羊乳チーズ(Pecorino)が多い国といえばイタリアですが、C.P.A.発行の「チーズの教本2019年版」によれば、イタリアには52個のD.O.P.指定のチーズがありますが、そのうち羊乳100%の物が16種類、羊乳と他の動物との混乳製が10種類で合計26種類のチーズに羊の乳を使われているのです。こうした状況を見れば、古代から羊乳を利用してきたイタリアにリコッタが多いのは当然なのですが、それでも羊乳のホエイといえども含まれる固形物は微量なので、現在では原料のホエイに一定量の生乳やクリームを加えることが認められているのです。そして、商品も進化し、これまではザルの網目模様が付いた真っ白なリコッタが主流だったようですが、最近ではスタジオナータという熟成させたリコッタも見かけるようになりました。

5.熟成させたリコッタ

 









©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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