フロマGのチーズときどき食文化

誰が決めたのか世界三大ブルー

2020年4月15日掲載

誰が決めたのか世界三大ブルー

①:味を語れる人は少ないトリュフ

日本三大○○とか世界三大○○という不思議なランク付けが日本人の日常会話によく出てきます。なぜ不思議かといえば、これらはその根拠となるデータや出典もさだかではないのに、日本人は平然と口にするからです。ある資料によれば世界三大なにがしは日本人特有の概念で、外国では通用しないとしています。
 

②:カラスミは日本の三大珍味

例えば世界三大料理はフランス料理、中国料理、トルコ料理で、日本人がよくいう世界三大珍味はフォワ・グラ、キャビア、トリュフとなっています。でもこの三品がどのような食品なのかを語れる人は少ないのです。ちなみに日本の三大「珍味」はクチコ、カラスミ、コノワタだそうですが、食べた事ありますか。

さて、話を世界三大に戻すと食品以外にも様々な分野に三大がある。例えば世界三大聖人はいいとして、世界三大美女や悪妻なんていうものもあるのです。観光の分野には世界三大「がっかり」という愉快なものがあり、それはマーライオン、人魚像、小便小僧だそうです。がっかりしたことありますか。筆者はコペンハーゲンの人魚像にがっかりでした。ところで、この「三大」の順位はどうなっているか。資料に出てくる順番そのままが順位だと日本人は何となく了解しているようです。

③:ロックフォールの岩山

本題に入ります。チーズにも「世界三大ブルー」というのがありますね。ご存じロックフォールとスチルトンとゴルゴンゾーラです。日本のチーズ関係の資料にはしばしば出てきますが、その根拠となる文献は見た事がない。フランス人は言下に否定するでしょうね。フランスにはD.O.P.認証の優れたブルー・チーズが7種類もあるので他国の物など決して認めないでしょう。ところで、日本でこのチーズのランク付けを最初にいったのは誰だろう。いろいろ調べてみると1993年に発行された「チーズ図鑑:文芸春秋編」のロックフォールの項に書かれていました。この図鑑の主筆はジャーナリストの故増井和子氏で、晩年パリに住みこの図鑑のために900種類のチーズを食べたと書いています。この本は日本初の本格的なチーズ図鑑だから、これが「世界三大ブルー」なるランク付けを広めた震源地かも知れません。ちなみにこの本の執筆者に本間るみ子氏も加わっています。

④:いまはベッドタウンのゴルゴンゾーラ

さて、そこで世界三大ブルー・チーズですが、ネット販売のサイトでは多くの業者が世界三大ブルーのタイトルでこれらチーズを販売していますが、その順位は例外なくロックフォール、ゴルゴンゾーラ、スチルトンです。これが一応、暗黙の順位なのでしょう。でも歴史の古さからいえばこの順位は妥当かも知れません。特にロックフォールはローマ時代から現在もある岩山の洞窟で熟成されていたとされ、人気、生産量も飛びぬけているからトップは納得でしょう。ゴルゴンゾーラはイタリアのミラノの東20kmにある村の名前です。9世紀頃からこの村は、秋口にアルプスから下山してくる乳牛の休憩地になっていた。その「疲れた牛」のミルクから柔らかいチーズが作られ、そのチーズに偶然青カビが入りブルー・チーズになったとか。最初はこのチーズはストラッキーノ・ディ・ゴルゴンゾーラ呼ばれていました。ストラッコ(stracco)はイタリア語で疲れたという意味です。お疲れの牛さん達をねぎらっての事でしょうか。このチーズ発祥の村は、今やミラノのベッドタウンになってしまいチーズ工房はないけれど大きな看板がありました。

⑤:街道筋にあるスチルトン村のベル・イン

さて、最後のスチルトンですがこの名は産地名ではなく、売り出された町の名前が付いたとされています。18世紀の初頭ロンドンからの街道筋にあったスチルトのベル・インという旅籠屋で宿泊客に売られていたものがロンドンでスチルトンのチーズとして知られるようになり、これがこのチーズ名の由来という説があり、大方はこの説を採っているのですが、「ラルースチーズ辞典」はチーズはこの町で作られていたとしているのです。


©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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