フロマGのチーズときどき食文化

チーズのゆりかご

2019年10月15日掲載

チーズのゆりかご
ヨーロッパのチーズ工房を巡り、無数の見知らぬチーズに出会うたびに、人間の想像力と創造力のすごさに感じ入ってしまうのです。しかし、どのチーズも最初は乳という液体を凝固させ水分の一部を除くという、原理としては単純な方法で生み出されます。それを発酵室あるいは熟成室の棚というゆりかごの上に並べ、人の感性を頼りに数日間、長い物では数年間かけて、それぞれの個性を育てていくのです。そして、このゆりかごの上には毎日作られるチーズが並ぶわけですから、生まれたてのチーズの初々しさや、数ヵ月、あるいは数年かかって成長したチーズの威厳というのも同時に感ずることができるのです。その一端を写真でお見せしましょう。

1.南フランスの小さなシェーヴル 

一点目の写真は南フランスで撮ったものですが、大きさを言えば高さが5センチほどのヤギ乳のチーズです。この初々しさと危うさを含んだ美しさはどうだろう。今にも壊れそうな怖さがありますね。
チーズを乗せた台に赤を使っているのは何か意味があるのでしょうか。でもそのおかげ写真がご覧のように可愛らしく映りました。このチーズは水分が抜けて形ができたら、真ん中に楊枝を刺しバラット(昔のバターを造る器具)の形にしてお店に並ぶのでしょうか。

2.パルミジャーノの形をつくる。

次の写真は、めったに見ることのできないパルミジャーノ・レッジャーノの熟成初期のものです。
でき上ったパルミジャーノの側面は膨らんだ太鼓型をしていますが、最初は円筒形の型に入れてチーズのおおよその形を作っていきます。次に、この写真のようにステンレス製の締め付け自在の型にはめて太鼓型にするのですが、この時内側にドット文字でチーズ名が彫られたステンレス板を巻いて側面にチーズ名を刻印するのです。

3.カビが繁殖したヴァランセ

3点目のチーズは何やら汚らしく見えますね。これは、ナポレオンの外相だったタレイランの城があるヴァランセ村のチーズです。
ロワール流域で作られるシェーヴルはなぜかチーズに木炭の粉をまぶすのです。セル・シュール・シェールやサント・モールなどもそうですが、でき立ては本当に真っ黒ですが、熟成が進むと表面にカビが来てギョッとするような外観になる。でもこれくらいにならないと本当のおいしさにはならないとか。

4.スプリンツの縦置き熟成 

4点目の写真はどうでしょう。ピカピカでつるつるです。大型の長期熟成チーズでこれほど美しいものはないでしょうね。熟成の途中から写真のように縦置きにして16ヵ月熟成させる。スイスで最も古いといわれるチーズでSbrinzと書いてスプリンツと読みますが、古くからイタリアに輸出されていたので、この読みはイタリア訛りではないかという説もあるのです。非常に硬いので鰹節削りに似た道具で薄く削って食べます。

5.びしょ濡れのカブラレス

5点目の写真を見てください。いま時のチーズは清潔で快適な環境のもとで、蝶よ花よと育てられるのに、このチーズは照明もない自然の洞窟で育てられています。ヘッドライトを借りて洞窟の中に入ると上から地下水が降ってくる。よく見れば写真のように、びしょぬれのチーズもあるのです。ここはピスコ・デ・エウロパと呼ぶスペイン北部の岩山が連なる谷間の洞窟です。この過酷なゆりかごで育てられているのはカブラレスと呼ぶスペインのブルーチーズの銘品です。


©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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