フロマGのチーズときどき食文化

面白さいっぱいチーズの世界

2019年5月15日掲載

面白さいっぱいチーズの世界

スイスの至宝エメンターラー

チーズというのは実に不思議です。ミルクという白い液体から、味、形、大きさの違うチーズが無限に作られている。ヨーロッパにチーズを訪ねる旅をすると、いつも多くの見た事もない面白いチーズに出会うのです。そのたびに闇雲に写真をとってきましたが、最近では変わった新作らしきチーズもよく見かけるようになりますます面白くなってきました。そんな中でちょっと目立ったチーズを紹介しましょう。
まずは世界最大のチーズといえばエメンターラーですね。いつもはカットした物しか見る機会がないので、丸ごとを見ると、その大きさにはド肝を抜かれます。スイスを代表する伝統的なチーズですが、重さは最大で120kgもあるというのです。でも、巨大なチーズはローマ時代、といえば2千年前の事ですが、かの有名な博物学者、大プリニュウスは当時のイタリア北部で作られる「ルナ」というチーズは、奴隷の食料として千食出せるほど大きいと書いているそうですが、重量を試算した人がいて、それによると450kgあったというからすごい。でも、このプリニュウスという人は、時々見てきたような嘘を書くと、さる研究者が書いていますから話半分にしておきましょう。

小さなチーズ、バラット

それに対して超小型のチーズをあげてみましょう。写真のように円錐形をした、フランス産のシェーヴル・チーズで、バラット(Baratte)という、重さは20g程度の超ミニサイズのチーズです。パリのチーズ商のマリー・アンヌ・カンタンのガイドブックによれば、1966年頃のミニスカートの時代に誕生したそうです。そしてその名の由来はバターを作るバラットという道具に似ているからとありますが、それがどんな道具なのか見る機会は少なそうなので写真でお見せしましょう。

バターを作る道具のBaratte

この木製の樽の中に差し込まれている棒が攪拌器で、この中にクリームを入れて激しく攪拌すると脂肪球を覆っていた蛋白質の被膜が破れて脂肪同士がくっつきあい浮上してきます。これを集め水で洗うとバターなになるのです。フランス語辞典を引くとbaratteは攪拌器とありました。






次は黒いちょっと不気味なチーズです。これらのチーズは日本でも見かけるのでご存知かと思いますが、フランス、ロワール川流域で作られるシェーヴル(山羊乳)チーズです。写真のチーズはうっすらと白カビが来ていますが、でき立てはギョッとするほど真っ黒です。筆者がいつも不思議に思うのは、この地方のシェーヴル・チーズは、形が面白い上に木炭の粉をまぶしたチーズが多いのは何故なのか。いまだに明快な答えに出会っていません。

ロワール地方の山羊乳チーズ

写真の三つのチーズは産地が近く、太巻き寿司状のものはサント・モール、そして丸いのがセル・シュール・シエールで、踏み台型のはヴァランセですがどれも町の名前がついている。その中でヴァランセにはお城があって、ナポレオンが皇帝の時代、時の外務大臣で美食家のタレイランにこの城を買わせて、ここで欧州列強の要人を招いて美食外交を行なわせたといいます。この城の地下室には広い厨房があり、そこには、ここで料理の指揮をとった、当時ヨーロッパ最高の料理人といわれたアントナン・カレームの肖像画がかけてありました。

プロヴォローネ・マンダローネ

最後はイタリアのチーズです。イタリアにはご存知のようにパスタ・フィラータというタイプのチーズが非常に多く作られています。その製法はいつどこで開発されたのか。泉圭一郎氏の「チーズ・その伝統と背景」によれば、この製法は千年単位の昔、中近東のどこかで発明され、水牛の導入と共にイタリアに伝えられたらしいと書いています。というのは、水牛乳はレンネット凝固によるシネレシス(カードの生成と凝縮)が、ほかの動物の乳のよりスムーズでないために開発された技術ではないかとしているのです。話はむずかしくなったけど、ともかくイタリアにはモッツァレッラを初めこの系統のチーズが全土でつくられています。このパスタ・フィラータ状のカードはよく伸びて加工しやすいので、大小取り交ぜて様々な形のチーズが作られています。写真のチーズはプロボローネの一種のマンダローネというチーズですがともかく巨大で、100kg近くはありそうでした。



©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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