チーズの飽和脂肪酸
「チーズはカルシウムが豊富だけど、食べ過ぎないようにね」とお医者さんから言われたことありませんか?これは「食事摂取基準 2015」に、飽和脂肪酸の摂取量を減らすと心筋梗塞になるリスクが下がると書かれており、乳脂肪の約62%が飽和脂肪酸だからです。欧米も同様で、牛乳を飲むなら低脂肪乳にしましょうと指導されています(いました?)。なお、飽和脂肪酸とは炭素間の結合に“二重結合”がない脂肪酸で、二重結合を含むものを不飽和脂肪酸と呼びます(図1)。
しかしながら、飽和脂肪酸が多い乳製品を沢山食べても、心筋梗塞など循環器系疾患になるリスクとは無関係だとか、日本人では乳製品摂取量が多いほど循環器系疾患になるリスクがむしろ下がるといった研究報告が発表されるようになりました。これらに関連した話はC.P.A.コラムの2017年7月20日、2017年8月20日にも書いてあります。また、J-MILKの箸本氏もわかりやすい解説を書いておられます。(PDF:「乳脂肪をめぐる健康に関わる最近のエビデンスの動向」)
加えて、2017年にはチーズの飽和脂肪酸は血中総コレステロールの濃度を統計的有意に下げるという論文が発表されました(注、統計的有意とはコレステロールを下げると結論しても95%以上の確率で確かだよという意味)(Feeney et al. Am. J. Clin. Nutr. 108: 1-8, 2017 )。
この研究では203名の健常な50歳以上の被験者を4グループに分けました。Aグループには普通のチェダーチーズを、Bグループの方には低脂肪チーズ+バター、Cグループにはバター+カルシウムカゼイン+炭酸カルシウムを6週間食べてもらいました。Dグループの方には最初の6週間はチーズ抜きの食事をし、その後普通のチェダーチーズを6週間食べてもらいました。
Dグループの方のみ計12週間実験に参加してもらい、A, B, Cグループは6週間の参加です。いずれのグループも乳脂肪換算で約40g/日となるように、また摂取エネルギーも同じに調整しました。試験終了後血清総コレステロールを測定し、実験前の値との差を求めました(実験後-実験前)。
この差がマイナスだと総コレステロールの値が低下したことになります。結果を図2に示します。
Aグループ、すなわち普通のチェダーチーズを6週間食べたグループの総コレステロールが最も下がり、次いでBグループ、Cグループの順となりました。食べた乳脂肪、たんぱく質、カルシウムは全てのグループで同じです。それでも、チーズの形でこれらを摂取した場合に最も総コレステロールが低下したのです。一方、Dグループではチーズを食べなかった6週間で総コレステロールは若干上昇しましたが、その後チーズを食べると低下したのです。
このように、最近は食品の栄養成分を個々に取り上げて議論するのではなく、食品あるいは食事全体の機能を議論すべきという考え方が台頭してきました(C.P.A.コラム 2017年8月20日参照)。それにしても何故、チーズの成分を個々に組み合わせる、すなわちカゼイン+バター+カルシウムを食べるよりチーズのまま食べる方が低コレステロールになるのか、その理由は論文には書かれていません。カゼインと脂肪球の相互作用、熟成によるカゼインや脂肪の変化、・・・いろいろ考えられます。
近年、乳製品に含まれる微量成分や乳酸菌の健康機能を調べる研究は盛んですが、乳製品の構造に関する研究はすっかり廃れてしまいました。しかし、例えば脂肪球を均質化した乳製品と均質化していない乳製品を食べた場合で血中コレステロールが同じなのか違うのか?今後の研究に期待したいと思います。