フロマGのチーズときどき食文化

チーズ造りの道具たちの仕事を見る⑥

2024年7月15日掲載

<チーズの熟成の現場>
朝のチーズ造りの現場には様々な音が飛び交っている。早朝に運び込まれる原料乳を貯乳タンクに流し入れるポンプの音に始まり、ミルクを運び込む輸送缶が触れ合う音、高圧蒸気でそれらの器具を殺菌する噴射音等々。それに反してチーズの熟成室には音がない。熟成庫の壁は庫内の低温状態を保持するためにぶ厚く作られ、外から直接空気が入らないようになっている。従って、内部の空気は冷たく外の音からも隔絶されている。そんな中でチーズは静かに熟成を続けているのである。

① パルミジャーノ・レッジャーノとグラナ・パダーノを同じ棚で熟成していた

騒音あふれる製造室からこの部屋に入ると、自分の呼吸音が聞こえてくるようだ。人が入らなければ電灯も消されチーズ達は、再び静かになった闇の中で確実に熟成していくのである。そんな熟成室もチーズの種類や大きや形など、それぞれのチーズの個性にあった環境の部屋が作られているのである。そんな熟成庫を紹介しよう。
まずは、世界で最も大きな熟成室を紹介しよう。写真①は北イタリアのグラナ・パダーノとパルミジャーノ・レッジャーノの熟成庫だが、これを見て驚きましたね。これ等のチーズは写真で見るように和太鼓型をした40 ㎏もあるハードタイプのチーズで、日本でも人気が高く、最近のネットでこのチーズを1個15万円で買ったという記事が載ると、それに対して数万回のアクセスがあったというからすごい。

② チーズを和太鼓型にする装置

①の写真は、イタリアの北部のパダーナ平野にある熟成業者の巨大な熟成庫で撮ったもので、40 ㎏もあるチーズが縦に15個も積み上げられているのは壮観、というより地震国で育った筆者にとって少し恐ろしかった。そして別の部屋では、このチーズの形を側面が膨らんだ和太鼓型にする現場の写真が撮れたのはラッキーだった。(写真②)

③ ペコリーノ・ロマーノの熟成

写真③は中部イタリアのローマ周辺で古くから作られていたペコリーノ・ロマーノという歴史あるチーズだけれど、今ではすべてが、対岸にある過疎化の進んだサルデーニャ島で造られているけれど、名前は「ロマーノ」のままである。
このチーズの表皮のデザインは中々凝っている。文字や絵柄などはすべてがドット(点)で描かれていているけれど、特にヒツジの絵が笑っていて可愛らしい。

次はスペイン北部にあるこの地方独特?のチーズの熟成庫を紹介しよう。ある年の夏に何の知識もなく大西洋に面したこの地方を訪れたのだが、ここのチーズはスペインの他の地方の物とは違っていて、一見してどのチーズも泥でてきているように見えた。

④ 泥細工のようなスペイン北部の羊乳チーズ

写真④の写真はどうだろう。チーズは中型で様々な形のものがあるが、熟成庫に並んでいるチーズのほとんどが泥にまみれたように見える。これ等のチーズはどの様にして売られるのかは、この旅は山の中ばかり歩いたので店を取材することができなかった。その代わり、高山の洞窟を利用したチーズの熟成室ではありえないチーズを見た。

⑤ 洞窟の湧水がしたたる羊乳チーズの熟成庫

岩山の中腹にある自然の洞窟を利用した熟成室は、傘がないと濡れてしまうほど湧水がしたたり落ちていたが、そんな中に、チーズの熟成庫があり、そこには、写真のようにしたたり落ちる水滴にぬれながら青カビ系のチーズが並んでいたのである。これまでの常識では信じられない光景です。世界は広い。


©写真:坂本嵩/チーズプロフェッショナル協会
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