サルデーニャ島の北端サンタ・テレサの港からフェリーに乗ってコルシカ島のボニファッチオ港を目指す、といってもたかだか20kmに満たない距離である。サデーニャ北部の都市サッサリを朝早く発って海岸沿いを50kmばかり走ると細長い入り江につくられた港に到着。そこには白地に巨大なクジラのイラストが描かれたフェリーが接岸していた。ここからフランスに渡るのだが、パスポートの検閲などないからローカルの渡し場と変わりがない。フェリーは乗客と車を飲み込むとすぐに出帆。甲板に出ると目の前にコルシカ島が見える。ビールを一杯飲んでいるうちに、コルシカ島の切り立った白い岸壁が見えてきた。間もなくボニファッチオの港だ。
サルデーニャにも高い山はあるが、全体にゆるやかな丘陵地帯が多く平地もかなりある。しかし、すぐ隣の島であるコルシカの地形は一変する。海岸から立ち上がった2500mクラスの峰が排骨のように連なり、平地は北東部にわずかに広がっているだけ。「山脈がそのまま海に沈んだのがコルシカだ」ガイドが言った。山の中腹はマキと呼ばれる灌木の密生帯があり、かつて独立運動の戦士達はこのマキの灌木帯に身をひそめゲリラ戦をおこなったという。コルシカにはたっぷりのハーブに身を隠したフルール・ド・マキというチーズがある。右手を握って人差し指を立てるとコルシカ島の形になる。広島県程の広さだが道路は曲がりくねった山道なので、思ったより時間がかかる。しばらく走ると山の中に美しい町が現れた。古い教会を中心に石造りの家が傾斜地に並んでいる。サルテーヌというどこか中世の香りがする町だ。町役場の前が広場でそこにはレストランがいくつか並んでいた。昼時だったのでその一軒のテラスに席を取って、まずはビールだ。渇きが収まったところでコルシカのワインと、それぞれ好みのプラ・ド・ジュール(本日の一皿)を頼んだ。コルシカのチーズが入ったサラダ、コルシカのシャリュキュトリー(ハムなどの豚肉加工品)の盛り合わせやサラダなど、それぞれ違った皿を取ったが、どれも30cm位の大きな皿にたっぷりと盛られている。この町で早くもコルシカのチーズとシャリュキュトリーを、快適な初夏の木陰で楽しむことができた。
山道を通り抜けやっと平地に降りるとじきにコルシカの首都アジャクショで、海沿いの道路はかなりの渋滞である。近くのワイナリーのアンテナショップ?でコルシカワインを試飲してから、町の西部にあるナポレオンの生家に近いホテルに入った。コルシカは山ばかりで交通が不便。フランスの本土から遠いなどの理由で経済発展に乗り遅れたというが、その分美しい海と自然が残り今は人気の観光地になっている。ホテルを出て裏通りを抜けるとすぐに目の前に港が開け、そこには地中海クルーズの巨大な豪華客船が停泊している。
夕食は近くのレストランで、これぞコルシカの田舎料理というものを堪能した。近頃日本でもフランス料理といえば小ぎれいな物ばかりで、濃厚なソースで煮込んだボリュームたっぷりの、これぞフランス料理の原点ともいうべき料理にはなかなかお目にかかれない。
翌朝は早起きして朝市の探訪である。ホテルのすぐ近くにナポレオンの像が建つ長方形の広場があり、その広場にテントで日よけした屋台が並んでいる。食糧品の店がほとんどでチーズの屋台が多い。一回りしてコルシカチーズの種類の多さに驚かされた。島特産の栗のケーキや栗の粉もあるし。個性的なシャリュキュトリー(豚肉加工品)も魅力的だ。
次回は続いてコルシカ島の東側にあるブロッチュー(島唯一のDOP指定のチーズ)と、新進気鋭の職人がつくるシャリュキュトリーの工房を紹介します。