パリの南西にポルト・ヴェルサイユ(ヴェルサイユの門)という所がある。昔のパリは城壁にぐるりと囲まれていて、一定の間隔で門がつくられていたが、この門はヴェルサイユ宮殿に通ずる門だったのだろう。いま門はないが地下鉄の駅名になっている。2月の末、このポルト・ヴェルサイユに9年ぶりに訪れた。50回目を迎える「パリ国際農業見本市」を見るためである。
それにしてもパリの四日間は寒かった。絶え間なくみぞれ交じりの小雨が降り続き、広大な見本市会場は小雨にけぶっていた。ヨーロッパ最大の農業イベントと称するこの見本市は、農業に関するあらゆるものが展示されている。まず、驚くのは動物の展示だ。その数は数百匹。牛馬から鳥類やペットまで一見農業と関係ないような動物もいるし、牛だけ でも20種類近くもいだだろう。種類別に四角く仕切られた中につながれ、分厚い敷き藁の上で悠然と干し草を食んでいる。原則的に囲いはなくその周囲を人々がぞろぞろと通り抜ける。
おりしも日曜日で動物達を目当てに子供連れがどっと押しかけた。大都会パリの子供たちは、動物に恐る恐る触れたり写真を撮ったりして大はしゃぎだった。私の目的は食品だから動物の方は軽く流して食品のパビリオンへ。
急がないと食品のパビリオンは広くて展示品が多く1日では到底回りきれない。開催国のフランスはもとよりヨーロッパ各国からの出品もある。フランスの物産はワンフロワーに地方ごと分けて展示されている。パンフレットで調べてみたら展示ブースが800以上、レストランが51あった。フランス大使館によればワイン6.000点以上、チーズ、食肉製品、ジャムなどが4.000点以上出品されるという。入場者は9日間で693.752人だったという。(フランス食品振興会)一日の平均入場者では東京ディズニーリゾートを超える。
いざ食品のパビリオンへと勇躍乗り込むが、その圧倒的な量の多さにどこから手を付けていいかわからない。とりあえずチーズがメインと狙いを定めて見落とさないようにブースを回った。9年前は確か試食販売はしていなかったと思うが、今回は呼び込みも勇ましく、まずは試食させ自慢の製品の解説を口早にまくしたてる。時々ビールやワインのスタンドで休憩しながらていねいに回ったら、3分の1も回らないうちに昼になった。広い室内を取り囲んで並ぶレストランは、昼ともなればどこも満員になる。パリの人達は地方料理に対する関心が高いようだ。私はスタンドで生ガキを白ワインで食べた。ここでは海産物の展示もわずかながらある。レストランの他、軽食のスタンドがあり、ラクレットやフォワ・グラのサンドイッチなどの他にクレープやワッフルなどが食べられ、これはもう、楽しい食の遊園地である。一回の試食はわずかな量だが数が多いので後半はギブアップ。5時間経過したところで、残りは明日ということで、残りをざっと下見してからホテルに戻った。
フランスはやはり乳と食肉の国。チーズと、特に肉製品の種類と量の多さはすごい。またイベントのスケールの大きさと奇抜なアイデアに圧倒され、豊かなる農業国フランスの実力を思い知らされた。みぞれ降るパリ15区ポルト・ヴェルサイユは熱く燃えていた。(この項来月に続く)